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みんなのやきとりエッセイ
豚バラもやきとりなの?
■柴田遼壱
豚バラ画像
やきとり屋さんになぜ豚肉が?
 やきとりになぜ豚が入っているのか?という疑問は多くの人が、ふと持つものです。ネット上でも諸説取り上げられています。
この矛盾を面白がって、看板に偽りありじゃあないか!とか、食品衛生法「虚偽表示の禁止」に抵触するぞ!とか、関東における「焼とん」との関係は?などいろいろと書かれていますが、最終的にはよくわからないということで終わっております。
また、広辞苑では、
 やき・とり 【焼鳥】
 鳥肉に、たれ・塩などをつけてあぶり焼いたもの。
 牛・豚などの臓物を串焼きにしたものにもいう。「―で一杯やる」

と書いてあるという報告まで入っています。


歴史をひもとけば
 そこで私たちはふたつの面から推測をたててみました。それは歴史的なものと味覚的なことからです。
 まず、歴史的なことから簡単に述べますと、
 江戸時代まで鳥料理といえばほとんどが野鳥でした。養鶏はありましたが、ほとんどが採卵用。食肉用の家鶏専門の養鶏はほとんど見られず、庭先養鶏の時代が明治になっても続きました。ですから明治時代から昭和初期までも鶏肉料理は高級食材だったようです。
そんな状況の中でやきとり屋さんは屋台から始まりました。もちろん今のように鶏肉は安価ではありませんから、他の飲食店から余って出てくるガラやスジ肉を使っていたと言われています。当然それだけでは商売がたち行かないので臓物が加わり、さらには牛の切り出し、馬肉、はては狗肉(いぬにく)まで交じっていたと言われています。つまり鶏肉へのあこがれと貧しい商いの智恵から始まったのが「やきとり屋」だと言えます。
 大正期に入りますと、関東では「焼とん」の屋台が主に臓物を使って始まりました。関東大震災後はウィスキーと焼とんがサラリーマンの人気となりました。関西ではこの頃から串カツが生まれました。
 そのようなやきとり屋の発生を引きずって、時代とともに変化してきました。戦後アメリカからもたらされたブロイラーによって鶏肉の飛躍的な増産に伴って価格は下がり、鶏肉は大衆的になって現在のやきとり屋さんの隆盛が始まったといえます。しかし、やきとり屋さんにはしっかり創世記からの伝統が残り、鶏肉だけではない豚肉も入っているということだと推測します。


味覚的には
 さて、もうひとつ味覚的なことから考えてみます。
 前述したように、やきとり屋では鶏だけではなく、なんでも串に刺してだされましたが、鶏がメインになり、社会も豊かなってきますと、怪しいものは影を潜めます。そして淘汰され洗練されてきます。そして定番に残ったのが、豚肉なのだと思います。
 豚肉の脂は不飽脂肪酸(植物油に含まれるリノール酸が多い)が多く、そのためしつこさを感じさせず、淡泊なせいで醤油タレによくなじみます。逆に牛の脂は飽和脂肪酸が多いのでタレと絡むとしつこ過ぎます。豚肉はそのようにメインの焼き鳥の味に沿いながら、それでも豚肉独自の旨味をもっているために、鶏肉と上手に味の相乗効果が生まれたといっていいでしょう。

庶民が作り出したもの
 やきとり屋に豚肉というのはやきとり屋の戦略でもなんでもなく、貧困から豊かさへ至る歴史の過程で庶民の味覚の欲求が作り出したものではないでしょうか。
今でこそ、やきとり屋に豚肉は矛盾していると笑っていえますが、こうして考えみると、哀しくもたくましい庶民の姿が浮かんでまいります。

(2005/07/22)
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