朝日放送の昼の番組「ムーブ」で特集された「豚肉なのにやきとりというのは偽装ではないか?」の続きである。
この質問をしたのは大阪の人だ。無理もない。大阪の「やきとり」は鶏肉を使用したものがほとんどだ。しかし、鶏肉を使わない「やきとり」も日本全国にはいろいろとある。
豚肉を使った「やきとり」には、豚ロース肉にタレをつけて炙り、洋カラシで食べる北海道室蘭市。豚カシラ肉にコチュジャン系のカラシ味噌で味わう埼玉県東松山市。豚バラ肉が人気の福岡県福岡市の屋台。ここでは、「牛サガリ(横隔膜)」も食べられる。馬の内臓肉の「やきとり」を味わう福岡県久留米市など、鶏肉以外のメニューの「やきとり」がある。また、東京を中心とする地域では、豚肉を使った「やきとり」、いわゆる「やきとん」の店が多い。
大阪と東京の「やきとり」の違いは、肉の消費の差でもある。大阪以西で「肉」といえば牛肉だが、東京では牛肉となる。300年以上も昔から、東日本では馬、西日本では牛を飼っていた。西日本では、農耕作業に使えなくなった老牛を食料にしたが、東日本では馬肉を食べることが主流にならなかった。明治時代に英国から輸入された豚の飼育が東日本に拡がったため、豚肉をたべるようになったと考えられる。文明開化で欧米文化の影響を受けた肉食が盛んになると、肉の好みに地域差が出てきたのである。
また、「トンカツ」の影響も大きい。「カツ」といえば東京では「トンカツ」となるが、大阪では「ビーフカツ」が中心。肉の大量消費は、屠殺場から出る新鮮な内臓肉を手に入りやすくさせた。かくして東京での豚の内臓肉は「やきとり」となり、大阪での牛内臓肉は「やきとり」とはならず、「焼き肉」となった。
食文化と風土の差が、「やきとり」の食材の違いを生み出したのである。
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