時は昔、1980年前後の話である。当時、九州の雄「NEW
DOBB」は、九州各地の大学祭やイベントで、忙しい毎日を送っていた。「ロックは反体制でなければならない」。そんな若さゆえか、大いなる使命感のおかげか、"東京"という巨大な権力に立ち向かうべくオレ達は、とにかく拳を振りかざしてステージを飛び回る事に全てを注いでいた。
知名度も金もない。あるのは、まさに反骨精神だけである。自分たちで、ブッキングをしては東京・名古屋・大阪・広島と、ツアーを決行した。ライブが終われば、もちろん打ち上げ。ちょうど大学で散らばった全国各地の友人たちの、四畳半一間、水道・トイレ共同の部屋(当時の大学生はみんなこんな生活だった)に、体を小さくして寝た。そして翌日はまた、車での移動である。こんな地獄のツアーも…今考えると夢のような日々と時間。青春に乾杯である。そこではエコーズの辻人成や、S-KEN、遠藤ミチロウらパンク連中など、たくさんの友達も出来た。そしてそんなツアーの中で、お世話になった数多くの友だちの中でも、特に印象的な人物がいる。
東京でのライブを終え、そいつの家に転がり込んだ。すると、ヤツは「ヤキトリをごちそうしよう」と言って、革ジャンとビデオデッキを段ボール箱に詰め込み、慣れた様子でのれんをくぐる。そこは、「質屋」(若い人にはわかるかな?)なのである。買いトリ♪ではなくて、本来質屋とは、商品(シチグサ)を担保にお金を貸してくれるトコロなのだ。主人とは当然顔なじみで、すぐに出された1万円札を握りしめ、焼鳥屋に連れて行ってくれるのである。(この場合買トリ♪ではなくて、ヤキトリ♪という事になる…。)滅多に食えないごちそう。しかも、自分の大切な物を抵当に入れてまでごちそうしてくれた行為は、オレは一生忘れないだろう。次の給料日に、ナフタリンくさい革ジャンと、ビデオデッキを取りに行くヤツの姿が目に浮かんだ。
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