第3部 「焼き鳥屋」登場~明治から昭和へ~

第3部 「焼き鳥屋」登場~明治から昭和へ~

 

鶏料理は高級でした。

明治維新は日本人の食生活にも大きな革命をもたらしました。 その一番は肉食文化の導入でしょう。スキヤキが生まれ、庶民の間にまで浸透していった姿はご存知の通りです。そんな時代、鶏料理は実は他の肉料理より高級な料理として珍重されたのです。ですから、牛肉よりも鶏肉はあこがれをもってみられていたそうです。

 

やきとり屋台現れる。

そのようなあこがれを背景に、庶民の間に「やきとり屋」が屋台として出現しました。しかし、高価な鶏が始めから供されるはずもありません。最初は先の鶏料理屋や他の飲食店から出るガラやスジ肉などが使われたようです。そして、神社の参道や橋のたもと、縁日の露店として店が出されました。  串で刺す出し方はすでに江戸期に、天ぷらやおでんの屋台などでやられていましたから、やきとりの屋台もその方法が取られたものと思われます。 ただ、そこに刺されるものはほんとにピンからキリまで、鶏のスジなどに加えて、牛の切出しや馬肉の下等物、さらには狗肉も混ざったりと、とにかく雑多なものが使われたそうです。やきとり屋さんに豚バラのように鶏以外のものがあっても「やきとり」というのはここらあたりの事情があるからかも知れません。

 

関東では「焼とん」関西では「串かつ」

大正期に入りますと、関東では「焼とん」の屋台が主に臓物を使って始まりました。関東大震災後はウィスキーと焼とんがサラリーマンの人気となりました。一方関西ではこの頃から串カツが人気を集め始めたのです。  ちょうどこのふたつの人気が本格的なやきとりの登場の前ぶれとなったようです。

 

鶏肉の生産

やきとりが庶民のものにまでなるには、鶏肉の生産と低価格が実現されなければなりません。  実際鶏肉の状況は、明治40年頃までには普通に食べられていた地鶏はほぼ滅亡してしまい、シャモは高級鶏となったという報告もあります。  飼育農家では成長が早く、粗末な飼料で飼え、耐病性が高い名古屋コーチンやレグホン種を飼うようになり、このような利潤追求の方策により在来種の飼育は壊滅的になっていたそうです。この傾向は戦後のブロイラー産業に引き継がれました。

 

戦争を挟んで

第二次大戦時は食料の減少と統制の日々でした。ご多分にもれずやきとり屋も大打撃を受けました。  そして戦後。やきとり屋もヤミ市のマーケットから復活しました。常設店のやきとり屋が登場しました。しかし、この時は豚や牛の肉がほとんどで、代用醤油とサッカリンで作られた甘いたれで焼かれました。この味覚の記憶が今につながっているのでしょうか。  また、関西では大正期に始まった串カツが復活。昭和26年の小麦粉の統制廃止を機に、お好み焼きやたこ焼きに加えて串かつも大阪名物になりました。  鶏料理はやはり高級料理でしたが、上等な部位の串や野菜の串、上品な味付けと今までにない串が登場しました。特にささみはめったにたべられない部位として人気を集めました。

 

鶏肉の生産

やきとりが庶民のものにまでなるには、鶏肉の生産と低価格が実現されなければなりません。  実際鶏肉の状況は、明治40年頃までには普通に食べられていた地鶏はほぼ滅亡してしまい、シャモは高級鶏となったという報告もあります。  飼育農家では成長が早く、粗末な飼料で飼え、耐病性が高い名古屋コーチンやレグホン種を飼うようになり、このような利潤追求の方策により在来種の飼育は壊滅的になっていたそうです。この傾向は戦後のブロイラー産業に引き継がれました。

 

米軍が運んだブロイラー

さて、米軍の駐留によって、もたらされたのがブロイラーでした。昭和40年以降にはその普及が広がり、大衆やきとり店も現在のやきとり屋のメニューほどにレベルがあがりました。低価格の焼き鳥はまさしく酒との相性ともあいまって、居酒屋では欠かせないメニューとなったのです。確かに通の人々にはその味は批難の的ですが、このブロイラーこそがやきとり文化の普及と下支えになったことは否めません。

 

新しいやきとり文化へ

近年になって地鶏ブームがやってきました。経済の発展と所得と生活の向上によって、食の世界も豊かに、多様になってきました。ブロイラーに飽き足らない味覚が育ってきたのも自然なことと言えましょう。市場には低価格な輸入鶏から比較的価格の張る国内鶏が並び、近年では希少価値になった地鶏が加わり、地鶏ブームとまでいわれるまでになりました。やきとりの専門店も地鶏の看板をかけたり、やきとりが居酒屋や新しい感覚のパブにお目見えするなど、様相が変わりつつあります。今や材料の吟味、部位の吟味、そしてハイレベルな調理を行う店が各地に増えてきて、新しい「やきとり文化」が始まろうとしているのではないでしょうか。

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